『書きかけの話「うさぎとかめ」 その1』
『書きかけの話「うさぎとかめ」 その2』
『書きかけの話「うさぎとかめ」 その3』
『書きかけの話「うさぎとかめ」 その4』
『書きかけの話「うさぎとかめ」 その5』のつづき
かめ男くんは渾身の力を振りしぼり走りました。
遠く後ろにうさこが走っているのを感じます。
今が、人生で一番がんばるときだ。
そして、どうか神様この願いを聞いてください!
もし、願いをかなえてくれるのなら、ぼくは・・・。ぼくは・・・。
そのかめ男の願いの声が、神様のところに届く前、うさこがゴールしました。
「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
うさこはゴールするとその場に倒れ込みました。もちろん、短いスカートのままです。
そして、うさこの呼吸が整ったとき、やっと赤い顔をしたかめ男くんがゴールしました。
かめ男くんの息が整わないうちに、うさこは帰ろうとしました。
私の勝ち・・・よね?
帰っていいんだよね?
こんなとき、友達たちがいてくれたらどんなに楽なことでしょうか。
かめ男くんは帰ろうとするうさこに気づきました。
あ・・・。
うさこに話し掛ける一つ一つにも勇気を振りしぼる必要があります。
それに・・・。
これだけがんばってきたけれども、結局勝負には負けてしまいました。
あんなにがんばって、こんなに好きなのに。
かめ男くんはあふれそうになる涙をぐっとこらえました。
もう、何を言っていいのか分からなかったけれども、ここで話し掛けないと一生話すことができないように思えました。
「う、うさこさんっ!!」
うさこが振り向きました。
「!」
「あ、あ・・・。そ、その・・・、お腹空きましたよね。」
なんで、こんなときにそんなことを言ってしまったのか、かめ男は恥ずかしく思いました。そして、今回の競走で買ってくることになっていた、くるみヶ丘駅のスティックドーナツをうさこに渡しました。
・・・。
あ!?と心の中で叫んだのはうさこです。
かめ男くんは勇気を振り絞ってうさこに渡すと、背中を向けて帰りました。
もちろん、この競走で流した汗と同じくらいの涙を流しながら・・・。
一方のうさこは、ドーナツを片手にその場に立ちすくんでいました。
ちがう・・・。
ちがう・・・!
私、ドーナツを買ってこなかった。
私、買ってこなかった・・・。
私の負け・・・?
うさこもその場で泣きました。
いろいろな感情が入り交じり、自分がなんで泣いているのかさえも分かりません。
さて・・・。
かめ男くんはうさこがドーナツを買ってこなかったことに気づいたのでしょうか?
それはかめ男くんにしか分かりません。
翌日・・・。
「うっさこぉ〜!!」
遠くからぶんぶんと手を振る友達たち。
いつもの風景。
いつものカッコいい生活。
「げぇんき〜?昨日結局、どうだった〜?」
「あはは。うちらちょっと待ったんだけどね〜。遅かったから遊び行っちゃったよ〜。ね〜。」
「そ、そう・・・。」
「うさこ、結局ゴールしたぁ?あのトロ男に身分ってやつしっかり叩きこんだ?」
「それにしてもあいつキモいよね〜。うさこと釣り合うわけないっつうの!」
「きゃははは!」
手を打って大笑いする友達たち。うさこにお構い無しで話をどんどん進めます。
何もそこまで言わなくてもいいのに。
と、そこにかめ男が通りかかりました。
あ・・・。
あ・・・。
お互いに気まずい二人。
かめ男は目をあわせないように下を向いて通りすぎようとしました。
「お、そこにいるのはもしかして勘違い王子のトロ男くん〜?」
「あははっ、なにそれバカうけるっ。勘違い王子だって!」
「どうせ、あれだけうさこに差をつけられたんだから、あきらめて帰ったんだろ〜?」
「とんだお笑い者だよね〜。まさにみ・じ・めってやつ?ねえ、うさこもなんか言ってやんなよ。最後まで走ってなんかないんだし〜。」
え・・・。
で、でも・・・。
うさこは腕を組んだまま、精一杯カッコイイ態度でいようと努力しました。
友達に話をあわせるだけですもの。
簡単です。
そう、簡単です。
「あ、あ・・・。」
ほんの一言
「そうよ、勘違いしてるわ。」くらい言えばいいのです。
「そ、そぅ・・・。」
そのとき、うさこはやっとかめ男くんのほうへ目をやりました。
ひどくうなだれて顔は見えませんが、恥ずかしさと悔しさできっとその顔は真っ赤になっていることでしょう。
あんなにがんばっていたのに・・・。
うさこは、ふと一生懸命走るカッコ悪いかめ男の姿を思いだしました。
あんなにみっともなくまっすぐ目を輝かせて、あんなにスマートじゃない努力して。
「ちっ、違うの!」
え・・・。
うさこが急に声を張り上げました。
「こ、この人、最後まで、は、走ったわ!」
え?うさこ??
友達、そしてかめ男くんもまさかのうさこの言葉に驚きました。
「それに昨日の勝負だって・・・。」
あ、私なに言ってるんだろう!?
え?
え?
こんなとき、どうすればいいの?
と、そのときです。
「お姉ちゃ〜ん!!」
遠くから子どもの声がしました。
あ。
そう。
うさこが送ってあげた子リスでした。
後ろにはおばあちゃんリスもいます。
「え?あなたなんでここに?」
「うん。おばあちゃんとバスに乗ってきたんだよ〜。」
子リスはそう言うとうさこに跳びつきました。
「まあまあ、昨日はうちの孫が大変お世話になりました。お嬢さんたら、お礼を言わせてもらおうと思ったら急いで飛び出してしまうんですもの。探すのに苦労しましたよ。」
「うさこ・・・?」
なにが起きているのか分からず、怪訝そうな表情でうさこの顔をのぞきこむ友達たち。
それに気づき、うさこはやっと我にかえりました。
いやっ!このままじゃ私がいい子ぶるカッコ悪い人に見られちゃうじゃないの!
急いで抱き着いた子リスを振り払いました。
「ちょっと、あなた誰よ・・・。私、知らないわ。」
「え?お姉ちゃん!」
「し、知らないわ。」
「まあまあ、照れていらっしゃるのかしら。昨日、うちの孫を月見町の私の家まで送ってくださったじゃないの。しかも孫を背負って走ってきてくださるなんて!ぜひ、お礼をさせてちょうだい。」
あ〜、もう。
なんでみんなの前で言うのよ!
こんな、こんなカッコ悪いこと・・・。
「あ、だからうさこさん、昨日のゴールがあんなに遅かったんですね!」
状況を理解したかめ男くんは感動していました。
うさこさんはやっぱり思っていたとおりの人だ!
「うさこさん!やっぱり優しい人なんですね!」
優しいなんてそんな恥ずかしくてみっともない言葉を人前で言われ、うさこの顔は真っ赤になりました。
そして、あまりの恥ずかしさにうさこの中でなにかがはじけてしまいました・・・。
カッコ良く!カッコ良くしなくちゃ!!
「ばっ、ばかっ!何言ってんのよ!あんたなんか、あんたなんか・・・トロ男のくせに!なに勘違いしてんのよっ!」
今まで友達がかめ男くんのことをトロ男と言ったり、汚いやじをとばしたりするのに不快感を持っていたのに・・・。
そして、友達たちはと言うと、うさこのその親切ぶりにただただ驚くばかりです。
「うさこ、まじ!?あんた、まじでこの子背負って月見町まで走って行ったの!?」
「そ、そんなのうそにきまっているじゃないっ!なによ、みんなで・・・!そんな、へんな、へんなカッコ悪いことばかり言って!こんなの信じるなんてみんなバカよっ!!」
うさこはなりふりかまわず否定して、わめいて、カッコ良く振る舞いました。
あまりの恥ずかしさに気が動転して、顔は赤く、ぐっと涙をこらえました。
「お姉ちゃ〜ん!」
子リスが再び、うさこに抱きつこうとしました。
「あ、あんたなんか知らないって言っているでしょう!このちびリスっ!!」
うさこは子リスを振り払うと、その場を走って逃げ去りました。
きっと、子リスを振り払うのと我慢していた涙があふれてきたのは同時だったでしょう。
そこにいた人たちがこの涙に誰も気づいていないことを祈るばかりです。
なによ!
なによ!
なによ!!
子リスとおばあちゃんリスがみんなの前にあらわれて、あんなカッコ悪いことを言ったのが気にくわないのか。
一生懸命走ったかめ男がみんなの前で、自分のことを「優しい」だなんてカッコ悪いことを言ったのが気にくわないのか。
いつもはあんなにカッコ良い友達たちが、あんなカッコ悪い話を信じたのが気にくわないのか。
そして、かめ男くんがあんなにカッコ悪く一生懸命走った姿。
自分がカッコ悪くも子リスに親切にしたせいで、勝負に負けてしまったこと。
うさこはわけが分からなくなり、泣きながら走りました。
カッコいい友達とカッコ悪いかめ男くん。
カッコいい自分とカッコ悪い自分。
頭の中でこの二つがぐるぐると何度も回りました。
泣きながら走る、うさこ。
恥ずかしくて
恥ずかしくて
悔しくて
悔しくて
みっともなくて・・・。
そう。
みんなにあんな言葉、ホントだったらカッコいいと思っていた言葉を言ったのがみっともなくて・・・。
泣きながら走るうさこ。
たった一つ、分かったことがあります・・・。
それは
今の自分はカッコよくなんかない・・・。
こんなの全然カッコよくなんかない・・・。
カッコ悪いよ・・・。
うさこのホントのゴールはまだまだ遠いようです。
これは書きかけの話。
ホントは勝負に負けたうさこ。
一生懸命なかめ男くんとその後、どうなったかはご想像におまかせします・・・。
↓読んでいただいてありがとうございます。感想聞かせてくださいね〜♪けっこう感情移入して泣きそうになりながら書きました^-^;
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